喫茶店を始めてからもう41年経ちます。店を始めるまでの経緯を話すと長くなるんだけどね、もともと珈琲とカップは好きだったんですよ。
秋田県出身で、大学も秋田に通っていました。その頃は甘くて飲みやすいウィンナー珈琲が好きで、ウィンナーコーヒーさまと呼ばれていました。ブラックコーヒーを飲むようになったのはだいぶ後の話です。
就職で上京してから、いろいろな場所を旅していましたが、いつか東北に戻ろうという思いがあり、再び秋田に戻って商売を始めることになりました。
知り合いには”スナックなんてやったら儲かるんじゃないか”なんて言われましたけどね、儲けよりも、やっぱり人と関わりたいという思いが強くあって、珈琲も好きで人よりよく知っている自負があったもんで、喫茶店を開くことにしました。
私は”病気をしても、髪がなくなってもいいから、今日もいい人と出会えますように”と毎日祈っています。
この店の前にも何件か喫茶店をやっていました。ひとつ前の店の名前が”ティータイムはオブジェのように”といったんだけど、お客様にとっては覚えにくかったみたいで、、、。
今回は覚えやすいのにしようってことで、Kissaten。これだったら忘れないじゃない(笑)
”あれ、この前行った喫茶店の名前は何というんだっけ?” ”あなた今言ったじゃん!Kissatenだよ!”ってね。
電話が来た時も、”もしもしKissatenです。” ”なんというお名前ですか?” ”だからKissatenです。”っていうやり取りで一笑い生まれるから結構気に入ってる。絶対にほかの店と被ることもないしね。
入り口にある看板は全部自分で作っています。一切人の手は借りてない。自分の信念を込めるつもりで書いています。
今はどこのお店も’’これがうちのおすすめ”って紹介したり、お客さんもインターネットなんかでおすすめを調べたりするみたいだけど、この店は自分が自信をもっておすすすめできないものは出しません。
どれもこだわりのものばかりです。それに、お客様が食べたいものを食べるのが一番だと思う。
以前、孫に”じぃじの仕事って何?”と聞かれたことがあります。私は”おいしいものを最大限おいしそうにして出すこと”が自分の仕事だと答えました。
お客様が、出された料理を見て、”あっ、おいしそう!”という顔をしたらいい仕事をしたなと思います。そこから料理を食べるかどうか、おいしいと思うかどうかはお客様次第だから。
普通喫茶店の内装は紺色や茶色が主流なんですよ。なので娘に壁をピンクにすると言ったら少し反対されました(笑)
店に入るとき、外の階段もピンクだったでしょ。私は、お客様が階段を上って、帰り最後の一段を下るまで、気持ちよく過ごせたらいいなと思うんです。だから気持ちが晴れやかになるようなピンクを選びました。
注文された料理を出して終わりではなく、”来てよかったな”としみじみ思えるような時間を過ごしてほしいのです。
喫茶店だからと言って、喫茶店らしい普通のものが良いとは限りません。店の家具も食器も一つ一つ自分の目で吟味して選んでいます。
今かかってるBGMもクラシックじゃないでしょ(笑)?聞き覚えのあるほうがみなさん落ち着くと思って。
長年様々な場所を旅して感じたのは、何においても”人”が良くなければならないということです。
どんなに食べ物がおいしくても、景色がきれいでも、その地の人に魅力がなければすべて崩れてしまう。
街に人の思いやりが感じられるといいと思うんです。道に迷っていたら誰かが声をかけてくれたり、道路標識が見やすかったり、表面的な利便性ではなく、そこに住む人のことを考えた工夫がみられると、いい街だなと感じます。
秋田市もそうですが、まちにはいろんな人が住んでいます。世代間によって、見たもの、経験してきたものが違いますから、なにが”正しい”かは違って当然です。それを寛容さをもって認めていく思いやりが今必要なのではないかと思うのです。
私はお店にいるときは、常にお客様のことを第一に考えています。ここで最高の時間を体験していただけたら、それが積み重なって秋田という土地への印象につながり、いつか自分にもかえってくるかもしれない。
まずは人と人とが向き合い、思いやりあうことが大事なのではないでしょうか。
(インタビュー 2023年5月)
コメントを残す